短編怖い話「押し入れ」

大学生の頃、俺は古いアパートに住んでいた。

築年数はかなり古かったが家賃が安かったので気にしていなかった。

ただ一つだけ変なことがあった。

夜中になると押し入れから、

「コン…コン…」

と小さな音が聞こえる。

最初は木が軋む音だと思っていた。

だが毎晩、ほぼ同じ時間に鳴る。

気味が悪くなって大家に聞くと、

「気にしなくていいよ」

とだけ言われた。

余計に気になった。

ある夜、意を決して押し入れを開けた。

中は普通だった。

布団と段ボールがあるだけ。

だが、奥の板に何か書かれていた。

鉛筆で小さく、

「返事をするな」

そう書かれていた。

気持ち悪かったが、誰かのいたずらだろうと思った。

その夜。

また音が鳴った。

コン…コン…

いつもと同じ。

だがその後、

初めて声が聞こえた。

「いる?」

押し入れの中からだった。

全身の血の気が引いた。

だが、パニックになった俺は反射的に言ってしまった。

「誰だよ!」

音が止まった。

しばらく静寂。

そして、

押し入れの奥から、

「やっと見つけた」

翌朝。

怖くなった俺はすぐに引っ越しを決めた。

荷物をまとめていると、押し入れの奥の板が少し浮いていることに気付いた。

外してみると、

そこには壁があった。

壁には鉛筆で大量の文字。

びっしりと。

全部、歴代の住人が書いたものだった。

その中で一番新しい文字にはこう書かれていた。

「返事をしてしまった。次はお前だ。」

そしてその下に、

昨日の日付が書かれていた。

俺はその部屋を飛び出した。

もう二度と戻っていない。

ただ一つだけ気になることがある。

引っ越しの荷ほどきをしていた時、

新しい部屋のクローゼットから、

コン…コン…

と音がした。

おすすめの記事