短編怖い話「壁の向こうの住人」

深夜2時。
一人暮らしの大学生が、古いアパートでレポートを書いていた。

その部屋には、少し変なところがあった。
押し入れの奥に、なぜか小さな引き戸があるのだ。

不動産屋に聞いても、

「昔の建物なんでねぇ。使わないでください」

とだけ言われた。

最初は気にしていなかった。
でも、住み始めて3日目の夜。

──コン。

押し入れの奥から音がした。

ネズミかと思った。
だが次の日も、その次の日も、必ず夜2時に鳴る。

コン。
……コン。

しかも、少しずつ近づいてくるような音だった。

怖くなった彼は、スマホで録音してみた。

翌朝、イヤホンで再生する。

最初はただのノック音。

コン。

……コン。

しばらくして、かすかに声が混じっていることに気づく。

「……あけて」

鳥肌が立った。

その夜、彼は友人を呼んだ。
二人で押し入れの前に座り、2時を待つ。

時計が切り替わる。

──コン。

友人も青ざめた。

「なにこれ……」

すると今度は、はっきり聞こえた。

「ねぇ」

押し入れの奥の、小さな引き戸。

そこが、ゆっくり揺れている。

ガタ……

ガタガタ……

大学生は震えながらも、思い切って叫んだ。

「だ、誰だ!」

すると向こうから、静かな声。

「そこ、私の部屋なんだけど」

二人は顔を見合わせた。

意味がわからない。

その瞬間、友人が青ざめてスマホを見せてきた。

地図アプリだった。

このアパートの構造図。
彼の部屋の押し入れの向こう側には——

“部屋なんて存在しない”。

その夜。

警察が来るまで、二人は玄関で震えていた。

でも警察が押し入れを調べても、
小さな引き戸の先は、

“コンクリートの壁”だった。

当然、人が入れる空間なんてない。

警察が帰る直前、年配の警官がぽつりと言った。

「……この部屋、前の住人も『隣人がうるさい』って通報してたな」

大学生が凍りつく。

「隣なんて、ないですよね……?」

警官は少し黙ってから言った。

「うん。ない。
でも前の住人、最後はこう言ってたよ。

『夜になると、壁の向こうで誰かが生活してる』って」

その瞬間。

押し入れの奥から、

コン。

と、一回だけ音がした。

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