
その学校の保健室には、昔から変なルールがあった。
「夜に体調が悪くなっても、絶対に保健室には行かないこと」
理由は誰も教えてくれない。
でも、破った生徒はいた。
ある日、夜の補習を受けていた生徒が、急に頭痛と吐き気に襲われた。
先生はもう帰っていて、校舎にはほとんど誰もいない。
仕方なく、保健室へ向かう。
ドアには「使用中」の札がかかっていた。
でも、中から物音はしない。
軽くノックすると、
「どうぞ」
中から声がした。
保健の先生の声だった。
安心してドアを開ける。
しかし、中には誰もいない。
ベッドもカーテンも整っているのに、電気だけがついている。
「すみません、誰かいますか?」
返事はない。
帰ろうとした瞬間、背後でカーテンが揺れた。
サッ……
振り返る。
ベッドの一つだけ、カーテンが閉まっている。
さっきまで開いていたはずなのに。
そのとき、ベッドの中から声がした。
「横になってください」
保健の先生の声だ。
でも、明らかに距離がおかしい。
カーテンのすぐ向こうじゃない。
もっと“近い”。
息をする音が、すぐ耳元にある。
怖くなってドアへ走る。
しかし、ドアが開かない。
鍵はかかっていないのに、押しても引いてもびくともしない。
背後から、ゆっくりシーツの擦れる音。
サラ……サラ……
カーテンが少しだけ開く。
中には誰もいない。
ただ、ベッドの上に“枕だけ”が置かれている。
その枕が、ゆっくり沈んだ。
まるで誰かが今、そこに頭を置いたように。
そして耳元で、はっきり言われる。
「熱、ありますね」
次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
気づくと、生徒はベッドの上に寝ていた。
保健室の電気は消えている。
カーテンの外で、誰かがカルテを書いている音だけがする。
カリ……カリ……
そして最後に、ページが一枚めくられる。
『新しい患者:_____』
名前の欄は、まだ空白だった。

