
その学校の女子トイレには、昔から一つだけ使われない個室があった。
一番奥。
扉が少し歪んでいて、鍵も壊れている。
でも理由ははっきりしない。
「入るとよくないことがある」
それだけが噂だった。
ある日、昼休みに遅れてトイレに入った生徒がいた。
個室はどこも空いていて、問題はなかった。
ただ、手を洗っているとき気づく。
水音に混じって、奥の個室から音がする。
コツ……コツ……
誰かが爪で扉を叩いているような音。
最初は無視していたが、ふと気づく。
その音、一定のリズムじゃない。
“真似している”。
生徒が動くたび、音も少し遅れて同じように動く。
怖くなって振り返る。
一番奥の個室の扉は、少しだけ開いていた。
誰もいない。
……はずなのに。
中から、こちらを見ている気配だけがする。
その瞬間、音が止まった。
静かになると、今度ははっきり声が聞こえた。
「入ってもいいよ」
友達に呼ばれていた生徒は、そのままトイレを出た。
振り返らなかった。
それが正解だと思ったからだ。
翌日。
そのトイレの一番奥の個室は、なぜか完全に封鎖されていた。
工事の紙が貼られている。
『使用禁止(理由:確認中)』
でも、その紙の裏から、うっすら鉛筆の跡が見えた。
こう書いてあった。
『次はあなたが中にいる番』
その夜から。
その学校のトイレでは、誰もいないのに水が流れる音がするようになった。
コツ……コツ……
一番奥の個室だけが、いつも少しだけ開いている。


