
私の友人Aは、とにかくいつも笑顔の男だ。
仕事で大きなミスをしても、上司に激しく怒られても、いつでも「へらへら」と笑っている。
不謹慎だが、彼の身内に不幸があった時でさえ、彼は口元に笑みを浮かべていた。
周りからは「不真面目だ」「何を考えているかわからない」と気味悪がられていたが、親友の私だけは知っている。
彼は極度の緊張や悲しみに直面すると、感情の裏返しで顔が引きつって笑顔になってしまうという、悲しい特異体質(ポーカーフェイスの逆のようなもの)なのだ。
私はいつも、周囲の誤解から彼を庇ってあげていた。
ある日の夜、Aから珍しく「今すぐ助けてくれ」と緊迫した声で電話があった。
慌てて彼のマンションに駆けつけ、インターホンを押すと、ドアが少しだけ開いた。
隙間から顔を出したAは、これまでに見たことがないほどの、満面の笑みを浮かべていた。
「なんだ、無事そうじゃん。脅かすなよ」
私が安心したその瞬間、Aは一言も発さず、そのまま後ろにバタンと倒れ込んだ。
【解説】
A君は「極度の恐怖や悲しみ、苦痛」を感じた時に、顔が引きつって笑顔になってしまう体質です。
その彼が「これまでに見たことがないほどの、満面の笑み」を浮かべていました。
つまり、ドアの隙間から顔を出した時、A君は人生で最大級の恐怖や苦痛を感じていたことになります。
助けを求めて電話をかけた後、彼の部屋に一体何がやってきたのでしょうか。
そして、彼が後ろに倒れ込んだということは、開いたドアの向こう(部屋の暗闇の中)には、今もおそらく……。















