
小学生の頃、夜になると自分の部屋の押し入れが怖かった。
理由は分からない。
別に何か見たわけじゃない。
でも寝る時だけ、押し入れの隙間が妙に気になる。
ある夜、耐えきれなくなって母に言った。
「押し入れの中、誰かおる気がする」
母は笑いながら押し入れを開けた。
もちろん誰もいない。
「ほらな?何もおらん」
そう言って閉めた。
でも、その日から母は毎晩寝る前に押し入れを確認するようになった。
「何もおらんから安心し」
そう言って笑っていた。
その習慣は中学生になるまで続いた。
高校に入る頃には、自分も怖くなくなっていた。
ある日、家の片付けをしていた時、母が何気なく言った。
「そういえば、あんた覚えとる?」
「何を?」
「昔、押し入れが怖いって毎日泣きよったやろ」
笑いながら続けた。
「最初に開けた時な、私もびっくりしたんよ」
「え?」
「だって…」
「誰もおらんかったんやもん」
解説
怖いポイントは最後の一言。
普通なら、
「最初に開けた時な、何もおらんくて安心した」
になるはず。
でも母は、
「びっくりした。誰もおらんかったんやもん」
と言ってる。
“びっくりした理由”が「何もいなかったこと」。
つまり母は最初に開けた時、何かがいると思っていた。
そしてその後、中学生になるまで毎晩押し入れを確認していた行動も急に意味が変わる。
「子どもを安心させるため」じゃなく、
本当に確認していたのかもしれない。
















